LogicoolのG602マウスのマイクロスイッチを3台交換修理した事例
はじめに
Logicool G602というマウスは
- ワイヤレス
- 比較的長い電池寿命
- サイドボタンが6個付いている(コピペ、アンドゥリドゥが便利)
などという特徴から非常に便利なマウスです。現在(2018/07)でもこれら特徴を完全に代替するマウスはなかなかありません。ボタン配置と価格帯が違いますが、G903があるくらいでしょうか。
しかしながら、既にこのG602の日本向けの生産は終了しており正規新品の入手は困難となりつつあります。Amazonなどでは並行輸入品が入手できますが、並行輸入品にはメーカー保証がないそうです。
そしてG602を長く使用していると左右クリックやホイールクリックの不具合が生じる場合が多いです。
上記の通り、このマウスを代替できるマウスは中々ないのでなんとか修理してまた正常に使えるようにしたいです。そこではんだこてを用いてマウスの左右クリックスイッチ、ホイールクリックスイッチの交換を行いスイッチ部が故障したG602の蘇生を試みました。
必要な部品および作業器具
部品(交換用スイッチ)
・左右クリックスイッチ
用いるのはOMRONの「D2FC」型のマイクロスイッチです。
アマゾンやヤフーショッピングで「D2FC」と検索すれば様々な商品が出てきますのでお好みのスイッチを選んで下さい。
初めから付いているスイッチは「OMRON D2FC-F-7N(20M)」です。私のG602で現在正常に動作しています。
私は50Mサイクル耐性のD2FC-F-7Nを下記ページから購入して装着しました。
OMRON 極超小形基本スイッチ D2FC-F-7N マウスボタン専用保守パーツ :za3uz80uts:みとりず屋 – 通販 – Yahoo!ショッピング
https://store.shopping.yahoo.co.jp/x4nl5y66trv6zzo2rlcfznqddi/za3uz80uts.html
2019/10月時点ではみとりず屋から購入できなくなっているので下記リンクでAmazonでの出品者から購入するのをお勧めします。
Amazon | オムロン(OMRON) D2F-01F互換品 マイクロスイッチ チャタリングなどの修理用 5個セット D2FC-F-7N(20M) | マイクロスイッチ | 産業・研究開発用品 通販
https://www.amazon.co.jp/dp/B00IGUZEWU/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_zbeUDb8ZK19M9
また秋月電子通商などで販売されているマイクロスイッチ D2F-01F(秋月電子通商へのリンク)はサイズは全く同じであり、恐らくはマウスのスペースに入るとは思うのですが、別の機種なのでお勧めはしません。
理由はD2F-01Fのカタログスペック(機械的耐久値)はD2FC-F-7N(20M)の1/20だからです。
・ホイールクリックスイッチ
用いるのはOMRONの「B3F-1000」タクタイルスイッチ(高さ:4.3mm、動作に必要な力:0.98N)です。モノタロウで購入できます。
私は高信頼形金メッキタイプのB3F-1002-Gを取り付けたのですが、こちらの動作に必要な力が元から装着されているスイッチの1.5倍である1.47Nというのを見落としていたので、修理前よりホイールクリックスイッチがやや重くなってしまいました。それでもホイールクリック自体は正常に動作はしています。次に修理する機会があればB3F-1000を用います。以下から購入できます。
タクタイルスイッチ B3F オムロン(omron) タクタイルスイッチ 【通販モノタロウ】 B3F-1000~
https://www.monotaro.com/g/00361397/
作業器具
・はんだこて
HAKKO PRESTO(ストレートタイプ)を用いました。
このはんだこては急速加熱が可能なので、後述のスイッチ取り外しが容易です。しかし、スイッチは小さいので20W程度のはんだこてでも作業可能ではあると思います。
・はんだ
今回はたまたま手元にあったヤニ入り・鉛フリーはんだを用いました。しかし、低温で溶ける有鉛はんだの方がより簡単に作業できると思います。
・はんだ吸い取り線
幅3.0mmくらいの普通ので
・基板用フラックス洗浄剤
goot BS-W20Bを使用しました。ガソリン車用水抜き剤でも代用可だそうですが、防錆剤などが入っているためお勧めしません。
・基板支持アーム型クリップ
はんだ付け中に基板を持ってくれる台で、あるととても便利です。安物で十分です。私はこれを用いました。
DAIKITOOLドットコム 391B ヘルピングハンズ
http://amzn.asia/fizvP7n
・精密ドライバー
100均ので十分です。
そしてはんだ吸取器(はんだシュッ太郎など)は用いない方が無難です。
これを用いてもはんだを完全除去するのが難しく、基板表面の銅箔パターンが剥がれる可能性が高いです。詳細は後述します。
作業
1. G602の裏側にある4か所の樹脂製の足を、爪やカッターナイフなどで剥がします。
この際に本体と足を接着している両面テープごと剥がすように気を付けて下さい。両面テープごと剥がせれば修理終了後に足を戻すだけで本体と接着できます。
2. 足を剥がすとネジが6か所見えるので精密ドライバーで全て外します。紛失注意。
3. 本体をゆっくり2つに分解します。
4. フレキケーブルを慎重に外します。コネクタの灰色の部分がロックなので、ロックを外してからケーブルを抜きます。
5. 電池ボックスと電源ケーブル(赤黒のケーブル)を外し、メイン基板を固定しているネジを外し、基板を分離します
6. アーム型クリップを用いて基板を固定します。
7. はんだこてを使って、外すスイッチの端子全てにはんだを山盛りにします。左右スイッチだったら各3か所、ホイールスイッチだったら4か所です。
8. スイッチ取り外しを行います。
私個人としては、はんだ吸い取り器でマイクロスイッチを外すのはお勧めできません。(理由は後述)
マイクロスイッチ取り外しの手順は、3か所(4か所)のはんだ山盛り部分を順番に手早く加熱して、全端子のはんだを溶かします。すると重力で勝手にスイッチが基板から外れるはずです。もしも落ちてこない場合でもはんだが溶けた状態で軽く叩けば落ちてきます。
はんだこてでHAKKO PRESTOを推奨するのは、3か所を順番に手早く加熱しても130Wの急速加熱でこて先の温度が落ちにくいためです。有鉛はんだなら恐らく20W程度でも大丈夫だと思います。
このはんだ山盛り法は基板表面の銅箔パターンにとても優しい方法です。
はんだ吸い取り器を用いるとスルーホール内のはんだを完全に除去する事は難しく、残った部品をラジオペンチで無理やり引っこ抜く事になりがちなのですが、その際にわずかに残ったはんだによって基板表面の銅箔パターンまで剥いでしまう事が多いです。ごく簡単な図にすると以下のような感じです。
筆者も最初ははんだシュッ太郎NEOでスイッチを外そうとしたのですが、その際にはんだを完全に除去できずにやむを得ずラジオペンチで無理やり引っこ抜いて1か所銅箔パターンを剥がしてしまっています。
(幸いマウスの動作には支障ありませんでしたが・・・)
2001年-2004年頃に2ch(当時)の自作PC板に出入りしていた方にはお分かり頂けるかも知れないのですが、当時は台湾メーカー製の不良コンデンサやニチコン製低ESRコンデンサHMシリーズの不良電解液騒動で、マザーボード上の不良コンデンサを高品質な日本製低ESRコンデンサに交換する事が一部で流行していました。
その際にもコンデンサを取り除く時にはんだを山盛りにしてコンデンサを外すという方法がマザーボードのスルーホールを壊しにくい方法であり、私もその時にこのはんだ山盛り法を知ってコンデンサを交換していました。下のようなコンデンサまとめもありました。
コンデンサメーカー一覧サイト
http://capacitor.web.fc2.com/
9. スイッチを取り除いた後は、基板上に残ったはんだをはんだ吸取り線で取り除きます。はんだが基板上に残っていると新しいスイッチが浮いてしまうので、確実に除去します。
もしもこの時にはんだ吸取り線を使ってもスルーホールが塞がっている状態であれば、再度はんだを山盛りにして、溶けた状態で基板を叩くと、その勢いで溶けた半田がホールから飛び出てきます。(やけどに注意)
あるいは溶けた状態の半田を、適当な太さのステンレス針金でホールから押し出してはんだを除去します。
10. はんだを山盛りにして基板がヤニで汚れているはずなので、フラックス洗浄剤でヤニをふき取ります。
11. 新しいスイッチを正しい向きで、
基板上の穴に奥まで差し込みます。
スイッチが少しでも浮いているとクリック動作に支障が生じます。確実に奥まで差し込み、セロハンテープなどで仮止めしてからはんだづけに入ると良いと思います。
12.
新しいスイッチをはんだ付けして、基板を戻し、フレキケーブルを再装着してG602を組み立て、足を戻したら完成です。
お疲れ様でした。上記の方法で3台のG602のスイッチを交換し、全て正常動作しています。
G602の電池は是非とも単三のリチウム電池を使ってみて下さい。とても軽くて快適です。パナソニックのFR6HJ/4Bが良いです。ヨドバシカメラやビックカメラの通販で安く買えます。(Amazonではちょっと高いことが多い)
余談
有鉛はんだを過去に用いたはんだこてでSn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだを用いると、はんだクラックを引き起こす可能性がある悪い組み合わせとなるそうです。
今回私は、有鉛はんだを過去に用いたはんだこてで鉛フリーはんだ(Pb-Cu系、銀不使用)を用いましたので悪影響が出るのか不明です。
また、Webでのその手の解説を読むと、今回のように大量の鉛フリーはんだの中に少量の鉛が混ざるのが良くないらしいです。
逆に大量の有鉛はんだの中に少量の鉛フリーはんだが混ざると(今回の修理を有鉛はんだで行った場合に相当)どのような影響が出るのかは分かりません。いずれにしても、個人の趣味としての範囲ではどのような場所にも有鉛はんだを用いるのが無難で、重大な問題は生じないとは思っていますが、もう少し知りたいです。